はじめに
長期投資を始めるとき、多くの人が悩むのが「全世界株式に投資するか、それとも米国株式に集中するか」という選択です。
特に人気なのが、三菱UFJ国際投信が運用するeMAXIS Slim 全世界株式(通称オルカン)とeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)です。
どちらも低コスト、積立NISAにも対応しており、SNSや書籍でも「どっちを選べばいい?」とよく話題になります。
投資の世界では「過去の実績」だけで判断するのは危険です。
米国株が好調だった20年間もあれば、新興国株が大きく伸びた時期もありました。
未来を予測するのは誰にもできませんが、商品の特徴やリスク構造を理解することで、自分に合った選択が可能になります。

1. 基本スペックの比較
項目 | オルカン(全世界株式) | S&P500(米国株式) |
---|---|---|
投資対象 | 全世界の株式(先進国+新興国) | 米国の大型株500銘柄 |
銘柄数 | 約3,000銘柄 | 500銘柄 |
主な構成国 | 米国60%、日本6%、その他各国 | 米国100% |
信託報酬(年率) | 0.05775% | 0.09372% |
為替リスク | 複数通貨に分散 | 米ドルのみ |
分散効果 | 非常に高い | 限定的(米国内) |
オルカンは1本で世界中に投資できるのが最大の特徴です。米国はもちろん、日本や欧州、中国、インドなども含まれます。
一方、S&P500は米国株だけですが、米国企業は世界展開しているため、間接的には国際分散効果もあります。
2. 過去のパフォーマンス比較
2-1. 直近20年の成績
米ドルベースの過去データを比較すると、S&P500のリターンはオルカン(全世界株指数)を上回っています。
2003〜2023年の年平均リターンは以下の通りです。
- S&P500:年率約9.8%
- 全世界株式(MSCI ACWI):年率約8.2%
この差は主に、米国のテクノロジー企業の成長によるものです。AppleやMicrosoft、Google、Amazonといった企業は株価が10倍以上になった期間もあります。
2-2. 時期によって逆転も
しかし、米国株が常に勝つわけではありません。
2000年代初頭はITバブル崩壊で米国株が低迷し、その間に新興国株が高成長を遂げました。2003〜2007年の期間では新興国株式が年率30%近いリターンを出した年もあり、全世界株式がS&P500を上回る場面もありました。
3. メリット・デメリット徹底分析
3-1. オルカンのメリット
- リスク分散力が圧倒的
政治リスクや景気後退が一国で起きても、他国の成長がカバーしてくれる可能性が高い。 - 新興国の成長を取り込める
インドやベトナム、インドネシアなど今後成長が期待される国も含む。 - 為替リスクが分散
米ドルだけでなくユーロ、円、新興国通貨にも分散されるため、通貨変動の影響を和らげられる。
3-2. オルカンのデメリット
- 米国株が突出して好調な時期はリターンが劣る
- 新興国は政治不安や為替急落のリスクも
- リターンが平均化されるため爆発的な成長は期待しにくい
3-3. S&P500のメリット
- 過去20年の成績が優秀
米国は世界最大の経済大国であり、イノベーション企業が集まる。 - 為替は米ドル1本
為替管理がシンプルで分かりやすい。 - 情報が豊富
日本語で米国株情報が手に入りやすく、学びやすい。

3-4. S&P500のデメリット
- 米国経済が低迷すると直接的に打撃
- 米ドルの下落が資産価値に直結
- 分散が限定的で、世界の成長全体はカバーできない
4. 仮想シミュレーション:10年前から月3万円積立
仮に2013年1月から2023年12月まで、毎月3万円を積み立てた場合(円換算):
- S&P500:約650万円
- オルカン(全世界株式):約550万円
この差は米国株の好調によるものです。ただし、もしこの期間に米国株が低迷していたら、逆の結果になる可能性もありました。
5. 将来シナリオ別の考え方
シナリオ1:米国が引き続き世界経済を牽引
→ S&P500が優位。テクノロジー企業や人口増加が成長要因。
シナリオ2:世界が多極化し、インドや東南アジアが台頭
→ オルカンが優位。米国依存を避けられる。
シナリオ3:為替の大きな変動
→ 複数通貨に分散されているオルカンが有利。
6. NISAでの運用ポイント
2024年からの新NISAでは、年間投資枠が拡大され、非課税で長期運用が可能になりました。
長期・積立・分散が基本なので、オルカンは初心者向きです。
一方、S&P500は成長重視の人向き。将来の米国株の伸びを信じるなら集中投資もありです。
7. 投資初心者がやりがちな失敗
- 「過去の成績だけ」で商品を選ぶ
- 株価が下落したら積立をやめてしまう
- 為替変動を軽視してしまう
これらを避けるためには、目的やリスク許容度を明確にし、数十年単位の視点で運用することが重要です。

8. まとめ
- オルカン=安心感と分散力、世界の平均を取る戦略
- S&P500=米国集中、高リターンを狙う戦略
- 将来の勝者は誰にも予測できないため、「両方に分ける」という選択肢も有効
杉山の積み立て設定は「オルカンとS&P500を半分ずつ」
これなら米国の成長を取り込みつつ、世界全体の分散効果も確保できます。