1. 企業概要と基本情報
伊藤ハム米久ホールディングス株式会社(証券コード:2296、以下「伊藤ハム米久HD」)は、日本国内におけるハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉製品の大手メーカーであり、さらに食肉卸や海外展開も手掛ける総合食品企業です。2016年に伊藤ハム株式会社と米久株式会社が経営統合し、持株会社として誕生しました。
本社は兵庫県西宮市と静岡県沼津市の2拠点体制。製造拠点は国内に多数あり、海外にも生産・販売拠点を配置しています。
企業理念として「おいしさと健康を提供する食品企業」を掲げ、長期的に安定した事業基盤を築いています。

基本情報(2025年現在)
- 証券コード:2296
- 業種:食料品
- 上場市場:東証プライム
- 決算期:3月末
- 株主優待:自社製品詰め合わせ(保有期間に応じて内容変化)
- 配当方針:安定配当、配当性向30%前後
2. 歴史と沿革
伊藤ハムと米久は、もともと独立した歴史を持つ企業です。
伊藤ハムは1928年創業の老舗で、戦後の食生活の洋風化とともに急成長。米久は1946年創業で、静岡を拠点に食肉加工品を展開してきました。
- 1928年:伊藤伝右衛門氏が神戸で伊藤ハム創業
- 1946年:米久株式会社設立(静岡県沼津市)
- 1970〜80年代:全国的な販売網を構築、百貨店ギフト市場へ参入
- 2000年代:海外市場進出、冷凍食品分野へ拡大
- 2016年:伊藤ハムと米久が経営統合、「伊藤ハム米久ホールディングス」発足
- 2020年代:アジアを中心に海外事業を強化、健康志向商品を拡充
この経営統合は、調達力・生産力・物流効率の向上というシナジー効果を狙ったものであり、国内外での競争力を高めるきっかけとなりました。
3. 事業構造とセグメント別概要
伊藤ハム米久HDの事業は大きく3つのセグメントに分類されます。
(1) 加工食品事業
主力事業であり、売上の約50%を占めます。
- 主力商品:ハム、ソーセージ、ベーコン、サラミ、冷凍食品、惣菜、レトルト食品
- 特徴:百貨店やスーパーのギフトセットで高いブランド認知
- 近年の動向:減塩・高たんぱく商品、レンジ調理対応商品の拡充
(2) 食肉事業
牛肉・豚肉・鶏肉の国内外調達・販売を行います。
- 国内外の牧場・農場と提携し、安定的に供給
- 外食チェーンやスーパー向けの業務用卸が主力
- 為替や国際食肉相場に業績が左右されやすい
(3) 海外事業
海外での販売・生産拠点を持ち、現地市場に合わせた商品を展開。
- 主な進出先:中国、タイ、ベトナム、米国、欧州
- アジア市場の中間層増加が需要を後押し
- 海外売上比率は全体の10%台だが、成長余地大
4. 業界背景と市場環境
日本の食肉加工品市場は成熟していますが、需要が底堅い理由は以下の通りです。
- 高齢化社会でも安定需要:ハムやソーセージは調理が簡単で保存性が高い
- 共働き世帯の増加:時短・簡便調理商品の需要増加
- 業務用需要の安定:外食・コンビニ・学校給食など安定供給先あり
一方で、健康志向の高まりによる「低塩」「低脂肪」志向や、植物性代替肉の普及が市場構造に変化をもたらしつつあります。企業はこれに対応するため、商品開発やマーケティングの方向性を変えつつあります。

5. 業績推移と財務分析
直近数年間の業績傾向は以下の通りです。
- 売上高は横ばい〜微増傾向
- 原材料価格(特に豚肉・牛肉)の高騰により利益率が圧迫
- 円安により輸入コストは上昇する一方、海外売上の円換算増加が一部でプラス寄与
- 自己資本比率は40%前後で、財務は比較的健全
- 営業利益率は3〜4%台と食品業界として標準的
6. 株価推移と投資指標
伊藤ハム米久HDの株価はディフェンシブ銘柄らしく大きな変動は少なく、安定的な推移が特徴です。
主な投資指標(2025年夏時点)
- PER(株価収益率):約11〜13倍(業界平均水準)
- PBR(株価純資産倍率):約0.7〜0.8倍(割安圏)
- 配当利回り:3〜4%台
- 株主優待:年1回、自社製品詰め合わせ(3,000〜5,000円相当)
株主優待と配当を合わせた総合利回りは4〜5%に達することもあり、インカム投資家から根強い人気があります。
7. 競合比較
日本ハム(2282)
- 国内最大手で海外売上比率が高い
- スポーツスポンサー活動でブランド力強化
- 規模と多角化で伊藤ハム米久HDより一歩先行
プリマハム(2281)
- 加工肉と冷凍食品に強み
- ギフト需要のシェアは高いが海外展開は限定的
丸大食品(2288)
- 惣菜や冷凍食品の開発力に特徴
- 食肉加工品の販売比率は低め
伊藤ハム米久HDは「ギフト市場のシェア」と「ブランド認知度」で競合と並ぶ実力を持ち、総合力では業界中上位に位置します。
8. 成長戦略
今後の成長ドライバーとして、以下が挙げられます。
- 高付加価値商品の開発
健康志向(減塩・高たんぱく・無添加)やプレミアムラインを強化 - 海外展開の拡大
特にアジア市場の中間層向け商品を増やし、現地生産体制を整備 - サステナビリティ対応
環境負荷低減、動物福祉基準に配慮した原料調達 - DX推進
生産・物流・販売管理のデジタル化によるコスト削減

9. 投資家視点での評価
伊藤ハム米久HDは、以下の理由から長期保有向けといえます。
- 安定配当+優待による高い総合利回り
- 景気変動に左右されにくいディフェンシブ性
- 国内市場の安定需要と海外市場の成長ポテンシャル
短期的な株価急騰は期待しづらいですが、長期的に堅実なリターンを狙う投資家には適した銘柄です。
10. まとめ
伊藤ハム米久ホールディングス(2296)は、日本の食肉加工業界における中核企業であり、ブランド力・商品力・物流網で強みを持っています。株価は安定的で、配当と優待を活用したインカム投資に適しています。今後は健康志向商品や海外展開を軸に持続的成長が期待されます。
投資判断としては「中長期保有による安定リターン狙い」が妥当であり、ポートフォリオのディフェンシブ枠として組み入れる価値がある銘柄です。